カフェ・ブレイク
「妹さんに呆れられた?」
頭をよしよしと撫でながらそう聞くと、義人くんはうなずいた。

「……由未のお友達の知織ちゃんのコイバナでうやむやになったけど。何かもう、俺、二重三重に罪悪感にかられたわ。……参った。」

打ちひしがれた義人くんがかわいくてかわいくて、私は何度も頬ずりした。

「夏子さんは呆れへんの?」
拗ねた口調でそう聞いた義人くんに、ちょっと笑ってしまった。

「今さら?……まあ、何も聞いてなかったら呆れたかもね。でも、橘さんのことは、私も責任の一端を感じてるから……お疲れ様、って気分。妹さんに聞かれたのは災難だったわね。かわいそうに。一番イイかっこしたい子に、嫌なところ見られちゃったんだもんね。」

「夏子さん、イケズ!」
そう言って、義人くんは私をソファに押し倒した。

「そう?ごめんなさい。」
「……ありがと。」

情緒不安定な義人くんは、普段よりも甘えたモードで私を抱いた。
子猫に甘えられてる気分で、愛しさでいっぱいになった。
これは、もはや「情」なのかもしれないな……。


実際、私はこの変な状況を楽しんでいた。
義人くんが不特定多数の女の子と遊んでいることも、妹さん達への想いをもてあましてることも……そりゃジェラシーは感じるけれど、憎悪や苦しみではなく、まさに恋のスパイスのように感じていた。
いろんな人と関わることで、義人くんが大人になっていくのをそばで見ていられるのは、むしろ楽しかった。

毎日が充実していた。
まるで頭に花が咲いているかのように、背中に羽根が生えているかのように、私はふわふわと楽しい日々を送っていた。

職場でもずっと笑顔で、薬剤師の和田先生とキャッキャとたわいもない話で盛り上がっていた。
……気がつくと、何となく周囲が騒がしくなってきていた。

「大瀬戸先生、モテ期じゃない?」
和田先生にそうからかわれるぐらい、独身の教職員から誘われることが増えた。
赴任したての頃に戻ったようだ。

……バツイチって広まってから、静かになってたのに。
そういえば、要人さんにも言われたっけ……充実してる顔をしてる、って。

「この歳で中途半端にモテても、困りますよ。来年は30ですよ、私。」
そんな風に、再婚願望を偽ることで虫を払おうとした。


……でも、それでヒートアップしてしまった人が出現した。
義人くん曰く「ほんまもんの、ええしのぼんぼん」。

体育教諭の吉永拓也先生が、わざわざ学園の理事長を介して結婚を申し込んできた……。
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