カフェ・ブレイク
翌日、意外なヒトの訪問を受けた。

10時頃、インターホンの画面に映っていたのは、玲子さんだった。
慌ててロックを解除して、玄関を出て、エレベーターホールで迎えた。

「なっちゃん!」
玲子さんは私の顔を見るなり、悲鳴のように私を呼んで、私を抱きしめて号泣した。

「玲子さん!?あの、どうして……。」
「成之に聞いた~。いったいどういうことなの~~~?何でこんなことになってるの?相手は!?どうして責任取らせないの~~~~。」
「玲子さん!お願い!部屋に入ってからにして~。ね、こっちだから。」
慌てて部屋へと案内した。

「……いいとこに住んでるじゃない。相手は小金持ちの既婚者?」
カフェインレスの紅茶を飲んで、ようやく落ち着いた玲子さんは、部屋をキョロキョロと見回して、そう聞いた。

「違います。隣にビルが建って、日が全く当たらなくなったので安くなったんですって。ちゃんと自腹で払って住んでます。誰の愛人でもありません。」

歯に絹着せぬ物言いの玲子さん……相変わらず小気味がよくって、ちょっと私は笑ってしまった。
「そう。よかった。って、よくないわよ!じゃ、相手は誰よ?ちゃんと認知してくれるんでしょうね?」

私のために本気で心配して怒ってくれてるのがヒシヒシと伝わってくる。
たぶん、実の母よりも……掛け値なしに心配してくれてる。

「相手は、このことを知りません。伝えるつもりもありません。内緒で、夜逃げするつもりです。何も望んでません。……ただ産んで、育てたいんです。」

「なっちゃ~~~~ん!もう!何でそうなのよっ!もうもうもうっ!!!」
玲子さんは再びボロボロと大粒の涙をこぼして私にしがみついて泣いた。

……幸せだなあ、って思った。
こんな風に、愛情をストレートにぶつけてくれるヒトのそばでなら、……私はおおらかに子供を育てられそうな気がする。

「で?相手は?不倫?二股?」
どうしても気になるらしく、玲子さんはグシグシと泣きながらも突っ込んで聞いてきた。

「……もう。ココを出て、引っ越して、落ち着いてから話したかったのに。……絶対、余計なアクション起こさないでくださよ。……高校生です。」

「ええええええっ!!!」
玲子さんは、ジタバタと悶絶した。

「そういうことなので、相手には何も求めてませんし、言うつもりもありません。」
キッパリとそう念押しした。
しばらくボーッとしてから、玲子さんはようやくうなずいてくれた。

「そうね。……それだと結婚しても、いきなり子供2人抱えるようなもんだもんね。すぐになっちゃん、愛想つかして出て行っちゃいそう。最初から期待しないほうがいいのかもね。」
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