カフェ・ブレイク
「なあ。やっぱり、ココで暮らさない?」
行為後、早く帰らなきゃ……と、時計を気にしてるなっちゃんにそう言った。

「……章さんがそう言ってくれるのはうれしいけど、お母様にも玲子さんにも、ダメって言われてる。」
伏し目がちになっちゃんはそう言った。

思わず俺は舌打ちした。
「何で……」

なっちゃんは、黙って首を横に振った。
……また、最強の2人がタッグを組んだもんだ……。

「ま、いいや。……一歩ずつのつもりが、今夜はスキップでいっぱい進んだし。」
俺の呑気な言葉になっちゃんはこっちを見た。

「……何ですか?一歩ずつ、って。」
「うん?……うん。とりあえずは、なっちゃんに告白するはずだったんだけど……それ、すっ飛ばして、抱いちゃった。ごめん。」
ハハハ、と笑おうとしたけど、うまく笑えなかった。

なっちゃんは、恥ずかしそうにカーディガンを羽織った。
「告白って、さっき『好き』って言ってもらいましたけど……」

「うん。言った。でもそれはもう告白じゃなくて心情がだだ漏れしてるだけ?」

なっちゃんは不思議そうに俺を見て言った。
「他に何の告白があるんですか?……真澄さんに振られて吹っ切れました?」

「うわぁ……それ、すげー、笑えない冗談。」
さすがにちょっと鼻白んだ。
けど、咳払いして仕切り直した。

「振られてないけど、吹っ切れた。てか、5年半前になっちゃんがいなくなってからずっと、俺の中の真澄さんはなっちゃんに淘汰されていなくなった。なっちゃんに再会して自覚した。だから、なっちゃんの京都の男に嫉妬してる。……それって、妊婦でもなっちゃんへの俺の想いは変わらないってことだろ?」

言ってから、あまりかっこいいことは言えてないことに気づいた。

……おかしいな。

頼之くんはあんなにかっこよく、他の男の子供を身籠もってるあおいちゃんを守る宣言してるのに……何で、俺はこんなにへなちょこなんだろう。

気恥ずかしくなってきた。

なっちゃんは、黙って聞いていたけれど、ふぅっと息をついた。
「……小門さんと真澄さんって……今も愛し合ってますよね。もしあの2人の、よりが戻ったら、玲子さんはどうなってしまうんでしょう。」

え?

なんで今、そんな話になるんだ?

……どうやら、俺の告白は華麗にスルーされてしまったらしい。
なっちゃんは沈鬱な顔で、悩み始めた。

「……あの……俺の気持ちは……聞いてもらえましたでしょうか?」
いつまでたっても難しい顔をしてるなっちゃんにそう声をかけた。

「あ、はい。うれしいです。だから妊婦なのに抱かれちゃいました。……玲子さんやお母様に怒られちゃうかな。ま、いいや。はっはっは!」
なっちゃんは、恥ずかしそうに頬を紅潮させて早口にそう言った。

……何だろう……この適当な感じ。
ちょっと傷ついたぞ、俺は。

こら!
ちゃんと、俺を見ろよ。
俺を意識しろ。
俺のことだけ考えてろ!

……結局、これが俺の本心かもしれない。
どうしようもないな、やっぱり……俺。
< 253 / 282 >

この作品をシェア

pagetop