カフェ・ブレイク

16年めの2人

11月のある午後、なっちゃんが青い顔で店に入ってきた。
いつもは店内をうかがってから、そーっと入って来るのに、珍しく勢いよくドアが開き、息も荒かった。

「……いらっしゃいませ……大丈夫?」
妊娠7ヶ月、誰の目にも明らかに妊婦のなっちゃんを、常連さんたちも気遣ってくれている。
……俺の子供だと誤解しているヒトがほとんどだけど、否定もしてない。

なっちゃんは、ぎゅっと胸の前で手を握り、少し震えているようだ。

何があった?

カウンターから出て、なっちゃんの手を取り、ゆっくりと椅子に座らせた。

その手がすごく冷たくて……思わず両手で包み込んだ。

「……知ってる子を見かけて……」
ホットミルクを作って飲ませると、頬に血の気が戻ってきた。
やっとなっちゃんはそれだけ言って、また沈み込んだ。

……京都の勤務先の学校の子、か?
学生にそこまで神経を尖らせるのは……なっちゃんの「京都の男」は、教職員なのか。

「こんなところで、珍しいな。京都から遊びにくるようなところでもないだろうに。」
しかも今日は平日だ。

「……オープンスクール……もしかして、受験するつもりなのかも。……そうやわ。」
珍しく、なっちゃんが関西弁でつぶやいた。

なっちゃんは、携帯電話を出して、一心不乱にメールを打ち始めた。
鬼気迫る形相に、俺はちょっとたじろいだ。
誰に連絡を取るのだろう。
洗い物をしながらも、目が離せない。

メールを送信し終えて、なっちゃんは、ぐったりとカウンターに突っ伏した。

「……やばい……3年間、会わないでいられると思えない……超~イケズ。絶対、確信犯やわ。面白がってるにちがいない。ひどい……」

ぶつぶつと小声で漏らすなっちゃん。
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