カフェ・ブレイク

女子大生との美味しい関係

春が来て、なっちゃんは大学生になった。
宣言通り、いろんな資格を取るべく勉強に励み、合コンやテニスサークルとは無縁の大学生活を送っていた。
うちにはしょっちゅう来たけど、あれっきり、俺に気持ちをぶつけることはなかった。

季節は巡り、なっちゃんが3回生になってしばらくして、何となく付き合ってる人がいると打ち明けられた。
正直なところ、胸に鋭い痛みが走った。
が、表面上はにこやかに祝福した。
なっちゃんは複雑そうな顔をしていた。

それからも店に彼氏を連れてくることはなかったが、なっちゃんの付き合いは順調に続いていたらしい。
ただ、恋話(こいばな)の水を向けても、惚気(のろけ)ることもなく、なっちゃんは常にクールだった。
俺にはあまり見せたくないのかな、と、それ以上は聞かないことにした。


「新聞見た!?」
8月。
まだ開店準備中に、小門が飛び込んで来た。

「……いや?まだ。何かニュースあった?」
小門は、買い漁ってきたらしい新聞各紙をカウンターにドサッと置いてから、その中の一紙の紙面を開いた。

「ココ!見て!ここ!」
差し示された写真には、少し大きくなった頼之(よりゆき)くんが写っていた。

見出しを見ると、連珠の世界戦で3位になったらしい……わずか9歳で。
すごすぎるだろ、これ。
言葉が出ない。

小門は新聞記事を改めて読み、目を潤ませた。
「すごいよな……何か、もう、胸がいっぱいで……」
そのまま小門はうつむいて、ボロボロと涙を落とした。

俺もまた、鼻の奥がツーンとしてきた。
慌てて鼻をすすり、小門におしぼりを手渡した。

……しかし、こんなの出場するだけでもすごいと思うんだけど……あいかわらず、真澄さんは小門に連絡しないんだな。
頼之くんはお父さんに会いたいだろうし、イイトコも見せたいだろうに。
かわいそうに。

小門の持ってきた新聞を一紙一紙開いて熟読する。
イチイチ泣く小門につられて、俺の涙腺もゆるみっぱなしだった。

……冷静に考えたら、32歳のおっさん2人が新聞を回し読みして落涙してる図ってのは……さぶいけどな。


10月の連休の夕方、なっちゃんが店にやってきた……振袖で。
……2年前……成人式の時にも確か華やかな振袖を着て来店していたが、その時とはまた違う着物だ。
辻が花の落ち着いた中間色のぼかしが交わった色合いで、なっちゃんが大人びて見えた。

見惚れそうになったけれど、すまして迎える。
「いらっしゃいませ。艶(あで)やかですね。よくお似合いですよ。」

なっちゃんは苦笑して、カウンターについて言った。
「……胃が痛くなるほど濃い~コーヒーください。」
何だ?それ。

「嫌なことでもありましたか?コーヒーよりお酒が必要ですか?」
自棄酒(やけざけ)でもしたそうな雰囲気なので、そう聞いてみた。

するとなっちゃんは、カウンターに両肘を立てて頬杖をついた。
「いーえ。幸せの絶頂よ。結納で2カラットのダイヤの指輪までもらっちゃって。」

結納?
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