カフェ・ブレイク
お風呂から戻ってきた夫は、何事もなかったかのようにバスローブを着ていた。
「ごめん。気持ちよすぎて、すぐに終わってしまったけど、子種は入ったから。」

「……いえ。悦んでいただけたのなら、うれしいです……」
とりあえずそう言ったけれど、私の中には疑問符が飛び交い続けていた。

夫は満足気に私を抱き寄せて、しっかりとホールドしたまま寝入ってしまった。
幸せそうな寝顔から、夫がご満悦なことはわかった。
でも、私は完全に置いて行かれてしまった。

コレが、初夜!?
もう、終わり?


……2ヶ月以上、大好きな人と、爛れた愛欲の夜を過ごしてきた。
結婚すれば、章さんを忘れられると思っていた。
でも、無理かもしれない。
息もつけないほどの、嗚咽と絶叫で声がかすれるほどのあの快楽を……上書きすることはできなさそう。

夫の腕に抱かれて、その胸に頬を押し付けて、いつまでも眠ることができず悶々と過ごした。
……先が思いやられる初夜だった。


「おはよう。そろそろ朝食に行かないと。ご挨拶に行くのでしょう?あまり寝坊すると恥ずかしいですよ。」
夫に起こされて、やっと目を開けた。

「……おはようございます。今、何時?」
「まるはちまるまる。」
……日本語で言ってください……いや、これ以上ないほど日本語か。

「つまり、8時ですか?」
もうちょっと寝かせてほしいのだけど、既に着替えて、荷物の整理まで済ませてる夫を見て、渋々起きた。

「チェックアウト12時でいいって聞いてるのに、もう帰るんですか?」
身支度を整えながらそう聞くと、夫は私の荷物まで整理し始めながら返事した。

「ウェディングプランナーさんだけじゃなく、今日中に、媒酌人ご夫妻と、近親と近所に挨拶に回りたいので、なるべく早く帰りましょう。」
……嫌だ。

結局、新居は夫の実家のすぐ裏の空き家を借りることになった。
夫の両親は同居、夫は実家の敷地内に新築、私は夫の職場の近くのマンションもしくは官舎住まいを希望した。
結局は、誰の意見も通らない形におさまったのだが、夫の実家に近すぎて、既に私は息が詰まりそうになっている。

「……一緒にお風呂に入らないまま帰っちゃうんですか?」
思わずそう言ってしまった。

夫はみるみるうちに赤くなった。
「こんな……朝から……」

そう言って背を向けてしまった夫。

……嫌がっているようには見えないのだけれど……恥ずかしいのかしら。
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