カフェ・ブレイク
花の盛りの春の宵夢。

幸せいっぱい、ムード満点の、絵に描いたような新婚初夜。

お相手も、この上なく極上の旦那様。
家柄は中世まで遡れるという豪族上がりの元造り酒屋の長男で、本人は防衛大学校出の海上自衛隊幹部。
護衛艦勤務ではなく経理補給幹部、つまり庁舎での後方勤務なので、普通のサラリーマンのように朝に出勤して夜には帰宅できる。
……北朝鮮やアメリカの動き次第で、帰れなくなることも多々あるが。

何より、お人柄がいい……と思う。
昔の武骨な軍人のようで、言葉が少なくて無表情で、一見、何を考えているかよくわからない。
でも、いつも礼儀正しく紳士的で、優しい。
こんなにも穏やかなヒトが、職業軍人だなんて不思議な気がするけれど、防衛大学校がとても偏差値の高いエリート養成所だと聞くと納得できる。

あかん……のぼせそう。
意を決して、私は浴槽から出た。

バスローブを着て、髪をタオルで拭きながら夫に声を掛けた。
「お先です。栄一さんも、どうぞ。」

夫は、とても海の男には見えない色白の肌を臆面もなくさらしていた。
……目のやり場に困る。

「いってきます。くつろいでいてください。」
そう言い置いて、夫は浴室へと消えた。


くつろぐも何も、夫は3分かからずに部屋に戻ってきた。
早っ!
……そういえば食事も早いけど、これも職業病なのだろうか。

まだ髪も乾いてないのに、私は夫にお姫さま抱っこをされてベッドへと運ばれた。
大きな目にバシバシのまつげが忙しく上下して、夫の緊張と興奮を窺い知ることができた。

……もしかして、このヒト……童貞……まさかね?

まさか……え?……マジ?
驚くほどぎこちない。
何をどう触ればいいのかも、わからないとか?

てか、一生懸命触れてくるのだけれど、ずれてるというか……困ったわ。

そう言えば、キスもしてない。
本当の意味で童貞かどうかはわからないけれど、少なくとも素人童貞なことは間違いなさそう。

夫に気づかれないように、腰を浮かせたり、少し捻ったり、横にずらしたり……微調整を重ねる。

え!?
もう入れるの?

え?
え?

え?何?

入ってるの?入ってないの?

え!?

えええっ!?

終わったの?

どういうこと~~~!?

煙に巻かれた気分。
よくわからないうちに、夫はイッてしまったらしい。
ティッシュで拭いてくれて、自分はお風呂場に行ってしまった。

驚いて、しげしげと見る。
……一応、私の中で?……本当に、イッたの?

全くわからなかった……。
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