カフェ・ブレイク
「お父さん?どういう意味ですか?むしろ姉さんのほうがよっぽど派手だと思いますけど。」

夫が舅にそう聞いてくれた。
実際、義姉は原色で、丈の短い格好を好む。
横浜とは言え、ほぼ湘南地区だからか、半分サーファーファッションもまじっている気もする。
……まあ、海までけっこうな距離があるので、あくまでファッションだろうけど。

舅は少し声をひそめて、近くに姑と義姉がいないことを確認してから言った。
「そうだな、ちょっと言い方がまずかったな。……つまり、夏子さんの服はどれもこれもデパートで売ってるブランド品だそうじゃないか。家内も娘も、うらやましがって……この数ヶ月、馬鹿にならん額の洋服を買い込んでいるんだよ。」

はあ?

「それは、お母さんや姉さんの問題で、夏子とは関係ないでしょう。夏子はいつも、どこに行っても恥ずかしくない清楚な格好を心掛けてますよ?何ら問題はありません。」
夫がキッパリそう言ってくれて、私はちょっと感動した。

舅は困ったように、それでも続けた。
「そうだな。確かに夏子さんはちゃんとしてる。それはわかるんだが……その時計も、真珠も、靴も、鞄も、ずいぶんと高価なものだとさっきもうらやましがられてな。私の気持ちもわかってくれ。」

……そんなこと言われても……。
私は夫に救いの目を向けた。

「……まったく。困ったヒト達だ。」
夫はその場ではそう言ったけれど、帰宅してから申し訳なさそうに私に言った。

「すみません。夏子さんが悪いんじゃない。でも、母と姉があなたに対して羨ましいという気持ちを通り越して妬ましく感じているように思いました。……少し、気をつけていただいてもよろしいですか?」

唖然とした。

「気をつける、って?どうしろとおっしゃるんですか?まさか、廉価品を買い直せと?……例えば、ブランド品を毎シーズン買い換えるような贅沢をしたならともかく……私はお嫁に持ってきたものを何十年も大事に使いたいと思っています。そんなことも許されないんですか?」

涙が出てきた。
「……栄一さんは、私が派手な浪費家だとおっしゃるんですか?」

夫は私を抱きしめた。
「思ってません。この数ヶ月、あなたがどれだけ心を砕いてやりくりしてらっしゃるか、わかってます。余計なものは一切買ってないことも知っています。でも、あなたは存在自体が華やかで目立つようです。」
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