カフェ・ブレイク
華やか?
目立つ?
そんな風に言われたことない。

普段はアクセサリーも時計も付けてないし、鞄だって……昔から愛用してるファミリアの布バッグなのに。
「例えば、夏子さんの使ってらっしゃる布の鞄。私は2年間神戸にいましたので理解できますが、関東では大人は使わないんですよ。幼稚園児がピアノのお稽古に行く時の鞄にしか見えないんです。なのに、夏子さんが愛用していると、すごく目立つんです。」
「使っちゃダメなんですか?みんなと同じモノを持てと?」

夫は静かに首を横に振った。
「そうは言ってません。ですが、郷に入っては郷に従えという言葉もあるでしょう。神戸では普通でもこのあたりでは目立ちます。夏子さんの車もそうです。……そもそも、夏子さんご自身が非常に美しくて目を引くのですから……」

私はうつむいて唇を噛んだ。
夫の言いたいことはわかる。
でも、そこまで合わせなければいけないものなのだろうか。
納得できない。

「ねえ?横須賀か、同じ横浜でももう少し賑やかなところに引っ越しません?」
……少なくとも、私が目立つと言われないところに。

でも夫は、申し訳なさそうに言った。
「すぐに転勤になります。それまでの辛抱ですよ。」

辛抱、ね。
夫らしい言葉に、私は苦笑した。

「9月から働くのでしょう?外に出れば、視野も広まりますし、母や姉の嫉みも気にならなくなりますよ。」
そう言いながら、夫は私の髪を整えてくれた。

少し泣いて乱れたのが、気になったらしい。
身だしなみに細かいヒトだ……。

「そうですね。9月から3月までだけの、産休代替教員ですけどね。」
そう言ってから、私は念押しした。
「本当に、私、働いてもいいんですよね?」

夫は至極真面目にうなずいた。
「住まいのことでは、あなたの想いを叶えてあげられなかったけれど、仕事については私も賛成です。社会で働いて、私の苦労を理解していただけることを願ってます。」
……防大卒の幹部の苦労がどんなものかなんて未来永劫わからないだろうけど、私は従容とうなずいた。
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