カフェ・ブレイク
「明日、冷蔵庫が届いたら、栄一さんの好きそうな食材も買っておきます。」
私がそう言うと、夫はうれしそうに何度も
「ありがとうございます。」
と繰り返した。

……よほど安心したのだろうか。
夫は最後まで食べ切る前に、居眠りをし始めた。

もしかしたら、夕べあまり眠れなかったのかもしれない。
時計を見ると、既に日付が変わっていた。

これから1時間かけて実家に返すのは酷かもしれない。
「栄一さん?今夜は泊まりますか?ここに。」
そっと揺り起こしてそう聞いてみた。

夫は目を開けてうなずいて、また目を閉じた。
……たぬき寝入り……ってわけじゃないよね?
ま、いっか。

中沢先生のくださったお布団はセミダブルサイズらしく、少しだけ大きかった。
結局、私達は一緒に眠った。
……Hはしなかったけど、ずっと夫の腕に抱きしめられて、息苦しいほどだった。



翌朝、夫はうちから出勤した。
中沢先生と私のお昼ご飯のつもりで、塩鮭のおにぎりを準備していたが、夫がうらやましがったので、急遽ご飯を炊き直した。

「今夜、夕食どうされますか?」
おにぎりを手渡しながらそう聞くと、夫は、ゴクリと息を飲んでから、決意したように改めて言った。
「これから毎日、私の分も作ってください。週末、夏子さんだけでなく、私の分の荷物もこちらに運んでよろしいですか?」

……それって……夫もココに住む、ってこと?

「私はかまいませんけど、お母さまが嫌がられるんじゃありません?」

すると夫は、苦笑した。
「母がこちらに乗り込んで来ない程度に、私は実家に顔を出すようにします。かまいませんか?」

……夫にしては、上出来だ。
私は、黙ってうなずいた。

夫は眉をひそめて、私を抱きしめた。
「夏子さんが、本気で帰る気がないって、あのお皿を見てわかりました。あんなにかさばる重たいお皿を敢えて選んで持ってくるなんて。」

……お皿……ああ、そうか。
確かにわざわざ砥部焼きを持ってきたわ。

「でも、夏子さん1人ならもっと手狭な部屋でいいのに、こうしてファミリータイプの部屋を借りてくださったのは、私も一緒に住んでいいということでしょう?」

……いや、それは勘違い。
私の、嫁入り道具を全部引き取りたいがためだ。

「同棲から、やり直しまょう?2人だけで。」
夫の言葉が、私の心にじんわりと沁み入った。

「素敵ね。」
本気でそう思えた。

涙で、夫の肩越しに見えてた街の風景が滲んだ。
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