カフェ・ブレイク
中沢先生の持って来てくれたお布団は、本当にイイ物だった。
「ちょっと待ってて。もう1つ取ってくるから。」
そう言って中沢先生は一旦私の部屋を出て、すぐにまた戻ってきた。
「これ、布団乾燥機。15分ほどかけると快適に眠れるから。」
そう言ってグレーの丸っこい機械をぶらさげて見せた。

「何から何まで、すみません。ありがとうございます。」
中沢先生はお布団を敷いて、乾燥機をセットしてくれた。

その間にスープを温め直した。
「ありがとうございました。夕食、召し上がって行かれませんか?特別なものはありませんが。」
有無を言わさず、ご飯をよそって、お箸を出した。
「わー……美味そうで、断れない。いいの?旦那、外で待ってるよ?たぶん。」
……そうでしょうね。

「いいんです。招かれざる客はほっとけば。さ、どうぞ。召し上がれ。」
中沢先生は、意外とお行儀よく座って、食べ始めた。
気になって急いで食べている雰囲気はなかった。
パクパクと、ご飯のおかわりまでして、炊飯器の中を全て平らげてから帰って行った。


しばらくしてから、再び玄関チャイムが鳴った。
洗い物をしていた手を止めて、戸を開ける。

「……私にも、何か作ってくれませんか?」
悲しそうに夫がそう言った。

もう23時過ぎている。
「夕食、まだなんですか?ご実家で食べればいいじゃない。」
驚いてそう聞くと、夫は顔を赤らめて、少し口惜しそうに言った。
「夏子さんの手料理が食べたいんです。」

……それは……
私は、あきらめてため息をついた。
「どうぞ。あまり食材ないんですけど……あ、お米も、今、なくなっちゃった。ちょっと待ってもらえますか?すぐ準備します。」

そう言って、夫を迎え入れる。
と、その場で、ぎゅーっと抱きしめられた。
……さっきと同じ状況なのだけど、夫は少し泣いているように見えて……可哀想というか、かわいく感じた。

すぐにご飯を炊いて、少ない食材の中で作れそうな料理を考える。
残念ながらまだ冷蔵庫がないので、夫が好きそうなお肉系はないし……。
「オムライスとスープでいい?」

夫は、何度も大きくうなずいた。
タマネギだけのケチャップライスを半熟卵でくるっと巻いた。

「美味しいです。」
スプーンを口に運びながら、夫はホロホロと涙をこぼした。

「泣きながら食べるのって、息苦しくありません?」
苦笑しながらティッシュで夫の涙を拭ってあげた。

夫は目を閉じて、されるがままになっていた。

そんな夫を突っぱねることは、私にはできなかった。
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