恋より先に愛を知る



「私に病を課せば良かったじゃないかって、そう思った。
 しかしね、どっちに転がったって、
 結局はどちらも苦しいことも知ったんだ」



自分自身でも訳がわからない、
このどうしようもない不安と恐怖。


ダメなんだと分かっていても
気分は一気に落ちていく。


周りの人が傷つくのも悲しむのも気づいているのに、
抑えられない感情を持ってしまうことは、とても辛く苦しいこと。


だけど。


それを受け止める側だって大変なんだよ。


元のように戻ってほしい。


そう思う一心で急かしてしまう。


そうすればなかなかいい状態にならないことに
苛立ちを覚えては咎めてしまう、負のループ。


おじいさんはそれをわかっているんだ。


「仕方のないことなんだと理解はしていてもね、
 私一人では婆さんを支えてやることは出来なかったんだよ。


 婆さんは病院で一人、入院することになった」


【入院?】


「あんたには、そうなってほしくはなくてね。
 いつも心配だった。

 泣いてはいないか、傷ついてはいないか、
 明日もここに来るだろうか・・・。


 こんなことを言えば怪しい爺に見えるのかもしれんがね」



かかかっ、と笑うおじいさんをじっと見つめる。


【どうして、名前も知らない私を気遣ってくれるの?】


私の言葉を見て、
おじいさんはそのままでも小さい目を更に細めた。


そうして一つ息をつくと、少し微笑んで口を開いた。


「あんたぁ、歳いくつだ?」


【19】


「そうか。私の孫とだいたい同じくらいじゃなぁ。
 まだまだ若いだろう。婆さんと違うのはそこだろうなぁ」



おばあさんと違うところは、私がまだ若いということ。


おじいさんはそう言って、私の顔を覗き込んだ。


「婆さんの入院しているのは、隔離病棟だ。
 病院の外には出られないし、病棟の扉はカギがかかってる。


 精神状態が悪い人たちがひっそりと療養する場所なんだよ。
 そんなところに、あんたみたいな若い人が
 ずっと入ることほど辛く惨いことはないだろう。


 私はそれが心配で心配でならないんだよ」



知ってる。


私のおばあちゃんも、
隔離病棟で過ごしているもの。





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