恋色シンフォニー
「電気消すよ」
後片付けが終わった三神くんが、電気のスイッチに手を伸ばした姿勢で、最後に残っている私達に声をかけてきた。

私は歩きながら平野さんに言う。
「すみません。まだ今日締め切りの報告書出せてないので。競合対策の件は、明後日くらいまでに対策案作って送りますね」

会議室の電気が消えた。
まだ部屋出てないけど。
三神くんを軽く睨むと、澄ました顔をしている。

「お、おう。じゃ、また今度な」

暗闇から、平野さんの声が聞こえた。



金曜日、午後10時。
明日休みだから今日は遅くまで仕事できると考える私は、まだ会社にいる。
どうせ残業代は出ないから、いくらいてもいいのだ。
仕事なんていくらでもある。
ひとりの家に帰りたくない。
帰ったら、何も考えずに眠りたい。

そうして、今日も最後のひとり。

さすがに頭が疲れて集中力が落ちてきたなあ……少し休憩しよ……
と、スマホをタップし、音楽をかける。

サン=サーンス作曲 交響曲第3番『オルガン付き』 第1楽章第2部。
オーケストラとオルガンがゆったりとしたメロディを美しく奏でる。

頭を使って脳が沸騰してるときのクールダウンによく聴く、お気に入りの曲。

伸びをして、目を閉じる。
音楽が身体に染みる。

たまんないわ〜この響き。
ことごとく、私のツボにハマる。

頭の中は、ヨーロッパの荘厳な教会。
(行ったことはないので、あくまでもイメージ。)

高い天井からキラキラと光が降ってくる。
天使も舞い始めた……。

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