恋色シンフォニー
間奏曲〜ヴァイオリニストの独り言〜
入社試験の最終面接の日。
駐車場に着くと、開けていた窓から、ベートーヴェンの交響曲第5番、通称『運命』の第4楽章が聴こえてきた。

隣の車からだ。

同じ面接に来たらしい、リクルートスーツを着た女の子。

目を閉じている。
寝てるのか、音楽に聴き入っているのか。

僕が持っているCDと同じだ。
フルトヴェングラー指揮、ベルリンフィル、1947年ライブ盤。

曲が終わると、彼女は目を開けた。

運命に挑むかのような視線。
キリッとした表情。

美しい、と思った。

車から降りて、建物へと歩いていく。
戦場へ赴く騎士のように。



面接待合室。
僕の前の人が面接部屋から出てくる。

『運命』を聴いていた彼女だ……。

近くで見る表情はいきいきとして、周りには清々しい空気が漂っている。

僕には目もくれず、外へ出て行った。

僕は名前が呼ばれるまで、彼女が出て行った扉を眺めていた。


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