恋色シンフォニー

「三神圭太郎くん。オーケストラやってたの?」
履歴書を見ながら、若い社長が言った。
「偶然だね。さっきの子もやってたって」
そうなのか。
「コンマスなんてすごいじゃない。小さい頃からやってたの?」
社長はクラシック好きらしく、面接のほとんどの時間は、オーケストラの話。

「指揮者がいないオーケストラをどう思う?」
「弾けない人がいたらどうする?」
「本番で止まってしまったらどうする?」

今思うと、会社とオーケストラって共通する部分がたくさんあるから、仕事に対する姿勢を知る、ちゃんとした面接だったんだと思う。



次に彼女に会ったのは、内定式だった。
彼女も内定者なんだと知ってうれしかった。

が、驚いた。
小さいスーツケースをひき、ヴァイオリンケースをしょってきたのだ。

「この後、学園祭でステージがあるので」
と人事担当者に話しているのが聞こえた。
凛とした雰囲気は変わっていなくて、たぶん、バリバリ仕事をするタイプだろうな、と思った。
内定式終了後、みんな携帯番号やメルアドを交換しているなか、彼女はさっさと帰っていった。
鮮烈な印象だった。

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