恋色シンフォニー


彼女が、恋人と別れた、という話は、瞬く間に広まった。

僕は、しぶっていたソリストの話を受けた。
ここで勝負かけなくてどうする。

人生には勝負どきがある、それを見極めて全力を出せ、って、父親に教えられていた。

あらゆる策を講じて、彼女を手に入れた。

なのに。

どこですれ違ってしまったんだろう。



ホールリハの後。
今日のリハの反省点を整理し、帰宅後の練習メニューを考えながら歩いていると、電話が鳴った。

……マリ?

『今ね、駅前で、綾乃さんと加地さんがとっても仲良く話してるわよ』

ヴィオラのエキストラの?
生来のリーダーシップというのはああいうことをいうんだろう、というくらいの、出来る男だ。
今日彼が入って、ヴィオラはかなりパワーアップした。

マリはとても楽しげに続ける。
『大学オケの先輩後輩なんですって。あ、邪魔しちゃだめよ。綾乃さんだって、私たちの話を邪魔しなかったんだから』

……なんだって?

『ああそれからね、加地さん、綾乃さんのこと、“綾乃”って呼んでたわよ』

……体の血が逆流するってこんな感じだろうか。

昔付き合ってたとか?
再会をきっかけに、よりが戻るとか?
あらゆる悪い妄想が広がっていく。

嫌だ。
絶対に他の奴に渡したくない。
< 179 / 227 >

この作品をシェア

pagetop