恋色シンフォニー
心配は無用だった。
すさまじい推進力の第4楽章に入っても、圭太郎は全く疲れを感じさせない。
先頭に立って、ぐいぐいオケを引っ張っていく。
早瀬さんは、ともすればダサくなりかねない曲をカッコよく整え、長さを感じさせずにここまで運んできた。
加地さん、相変わらず熱い弾き方だ。
望月さんは派手さはないけど、堅実な感じ。弾き方が圭太郎と似てる。
チェロの彼は意外と激しいんだ。
定食屋のおかみさんも、ファゴットトップの旦那さんも、素敵。
みんなアマチュアでも、こうしてオーケストラやってるなんて、ほんとすごい。尊敬。
曲はコーダへ突入。
オーケストラからものすごいエネルギーが発散され、心が高揚し、鳥肌がたつ。
もう、グレート最高!
シンフォニー最高!
オーケストラ最高!
……拍手しすぎて、手が痛かゆい。
ステージではカーテンコールが繰り返されている。
何度目かで、早瀬さんがオケを立たせようとするけど、コンマスの圭太郎は立たない。オケ全員で足を鳴らしたり拍手したりして早瀬さんを讃える。
前回も見た光景だけど、今回は親近感をもって早瀬さんを見つめる。
早瀬さんははにかむ。
一瞬、鎧が脱げた。
いつもの澄ました笑顔と少し違って、素の女の子に戻ったようで、すごくかわいい。
早瀬さんはその笑顔でオケを讃え、客席に深々とお辞儀をした。
拍手のボリュームが上がる。
私も目一杯拍手を送る。
同じ働く女性として、あなたを尊敬します、早瀬さん。
長い曲なので、アンコールはなし。
ホールに興奮を残したまま、お開きとなった。