恋色シンフォニー
「華子先生!」
圭太郎が着替えて、ヴァイオリンケースを肩にかけて、ロビーへ出てきた。
かっこよくて、胸がきゅっとなる。
「圭ちゃん! 素晴らしかったわ!」
おばさま、もとい、華子先生は、圭太郎を抱きしめた。
「いらしていただいてたなんて……ありがとうございます」
華子先生。
設楽華子さん。
この人が、設楽龍之介さんのお母様で、ヴァイオリンの先生なんだ。
「あんなに色っぽい演奏するようになって……。先生は感無量です。久美子にも、お父さんにも、聴かせたかったなぁ。……今までよくがんばったね」
涙声になる華子先生。
久美子さんというのは、圭太郎のお母様だ。
「先生が、僕に基礎を叩き込んで下さったおかげです。本当に感謝しています。それに、演奏中、父と母が僕の中にいるのを感じましたから……」
「圭ちゃーん! うっうっ……」
本格的に泣き始める華子先生。
「ちょっと。その辺にしときなよ。恥ずかしい」
設楽さんが、華子先生の肩をたたき、圭太郎から引き剥がした……。
「そうよね、圭ちゃんのこと待ってる人、たくさんいるみたいだものね」
涙をぬぐう華子先生。
「彼女とお幸せにね」
「はい」
圭太郎がはにかむ。
華子先生は満足そうにうなづく。
そして次の瞬間には、
「あらっ、雅ちゃん!」
ヴァイオリンケースを背負ってロビーへ出てきた望月さんの元へ走って行った。
「華子先生!」
「まー、大きくなって!」
すごい、パワフル……!
さすがは設楽さんのお母様というのか……。