恋色シンフォニー
出口に向かって歩いていると、隣にいた設楽さんが、急に、
「げ」
と言って立ち止まった。
同時に、
「龍之介〜!」
という女性の声がみるみる近づいてきた。

派手な洋服を着たおばさまが、満面の笑みでこちらにやってくる。
緋色のジャケットに、碧いロングスカート。
年齢不詳……。50代? 60代?
美人だけど、瞳は少女のようにキラキラ輝いていて、人懐こい印象。

設楽さんは、はあぁー、と大きなため息をついた。
お知り合い?

「龍之介、久しぶり! 元気だった?」

わっ。
おばさまが設楽さんに抱きついた。
設楽さんはあきらめたように、おばさまの背中に手を回した。
まさか?
設楽さんのカバー範囲、広すぎやしませんか……?

「元気だったよ。来るとは思わなかった」
設楽さんはおばさまの身体を離した。
「だって、可愛い圭ちゃんが協奏曲弾くっていうんですもの、聴きに来ないわけがないでしょう?」

け、圭ちゃん?

「だからって、はるばるイタリアから来るなんて……。連絡くらいすればいいだろ」
「龍之介を驚かせようと思ったのよ〜。彼女のお姿も見たかったしね」

おばさまは私を見てにっこり笑う。
いえ。違いますから。

「彼女は、圭太郎の彼女」
「こんにちは」
「あらぁ〜! あなたが、圭ちゃんが愛を語ったお相手なのね!」

うわ、恥ずかしい!
またも“分かる人”登場⁉︎
このおばさまはもしかして?
< 201 / 227 >

この作品をシェア

pagetop