恋色シンフォニー
「三神くん!」
「何?」
「これっ、このDVD貸して!」
「どれ?」
「三神くんが卒演でチャイコ弾いたやつ!」
「‼︎ それはダメ」
三神くんが慌ててこちらに寄ってきて、私の手のDVDを取り上げようとする。
私は死守。
「こら。人のを勝手に……!」
「だって、聴きたいもん」
「だめ」
逃げる私と追う三神くん。
「なんでだめなのよ?」
「なんで聴きたがるんだよ」
リビングのソファの周りで追いかけっこ。
が、ソファにつまずき、よろける。
「あぶなっ……!」
三神くんがこちらに手を伸ばし、私の腕をつかんだけど、私の倒れる勢いは止まらず……
2人でソファに倒れこむ……
寸前で三神くんが私を引き寄せ、膝をソファにつき、衝撃をやわらげた。

……三神くんに、しっかりと抱きしめられている……。
目の前には、アザのある鎖骨。
ヴァイオリニストの腕なだけあって、筋肉がしっかりついている。
柔軟剤のにおい。

……これはやばい。
……三神くんにこんなにされるのは、非常にやばい。
頭の中で警報音が鳴る。

そっと、ソファに降ろされる。
体が離れてほっとした。
心臓が痛い。
「あのっ、腕、大丈夫? 指、何ともない? 背中は? 腰は? ケガしてない?」
「……平気」
三神くんはそっけなく言って、私の手からDVDを取り上げた。
くるり、と私に背中を向けて、キッチンに戻っていく。
「ごはん、できるよ」

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