恋色シンフォニー
「いつからいたの?」
「3オクターブのスケールくらいから、です」
「……けっこう前じゃん。ずっと聞いてたの?」
「あまりに上手で……」
聞き惚れてました。
言わないけど。言えないけど。
「ただのスケールだよ」
三神くんはそっけない。

「それでも、……三神くんが、人生をかけてきた音がする」

三神くんは返事をせずに、向こうをむき、歩き出した。

「朝ごはん食べたら送ってく」



ダイニングを経由し、キッチンへ入っていく。
「あの、何か手伝うよ」
「……いいよ。座ってて」
そう言われると、手を出しにくい。
仕方なく、部屋を観察して回ることにした。
きれいに片付いている。
というか、モノが非常に少ない。

隣のリビングの本棚には、音楽関係の本がズラリ。
下段には、クラシック音楽のDVDもしくはクラシックをテーマにした映画のDVD。
最下段は、大学と今のアマオケの演奏会のDVD。

その中の、大学の“卒業記念演奏会”とラベリングされた、手づくり感あふれるDVDを何気なく手にとり、息をのんだ。

『チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲』

ソリストは、三神圭太郎‼︎

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