恋色シンフォニー


「わ、おいしい」
「でしょ。オケの人に教えてもらった」
こぢんまりしたラーメン屋さんは、ほぼ満員だ。
隠れた名店その2か。

「橘さん」
「はい?」
「何か……お詫びしようと思うんだけど……。この間は、僕の我儘をきいてもらったから……」
「あれは仕事上のことじゃなくて迷惑かけたから。今回のは仕事だから、別にいいよ」
「そうかもしれないけど……、それじゃあ、申し訳ないし、僕の気がすまないというか……」

うーん、男のプライドというのは難しいなぁ。
どうしたものか。

三神くんにしてもらいたいこと?
そう考え。

ふと。

思いついた。

「申し訳ないと思ってるならさ」
「うん」
「頼みがあるんだけど」
「何?」
「きいてくれる?」
「……よほど変なことじゃなければ」
「ああ、それは平気」
「何?」

「卒業演奏会のDVD貸して」

「……」
三神くんが頭を抱えている。
うふふ。
「仕事とは関係ないと思うけど」
「あら、私の数時間、プライベートにも使えたはずなんだけどな〜」
「……それとこれとは……」
「何が問題なのよ?」
「……橘さんの大学オケのDVD見せてって言ったら見せてくれるわけ?」
「あーーー……そりゃ恥ずかしいから無理だわ」
「そういうことだから」
「いやいや。あの場でねちねち原因問い詰めたり、騒いでおおごとにしたりしなかったポイント大きいと思うけど」
「冷静で御立派な態度でした」
「でしょ」
はあぁ〜……と、三神くんはこれ見よがしに大きなため息をついてから、重々しく口を開いた。
「条件がある」
「何」
「僕の家で見ること」
「はっ? 何それ」
「ダビング防止。信用してないわけじゃないけど、念のため。それとも、僕が橘さんちに行こうか?」
「……それはだめ」
恥ずかしながら、人を呼べる部屋ではない。
「じゃあ、決まり。今度の土曜日午後、空いてる?」
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