恋の指導は業務のあとに

「・・・参ったな」

「はい?」


首を傾げて、何が?とアピールしてみるけれど、羽生さんは無言で私を見下ろしている。

それに、何故だかちっとも離してくれない。

LDKの入口で、羽生さんの右腕は私の体をしっかり抱き抱えていて、左腕は私の背後にある壁まで伸びている。

自分から離れようと試みるけれど、右も左も封じられていて動くことができない。

モゾモゾ動いたら、腕の力は緩まるどころか反対にぐっと強くなってしまった。

どうして?

羽生さんはお風呂上がりのせいか、頬が少し赤くて妙に艶っぽい。


「あ、あ、あの、髪を拭かないと、風邪をひきます、よ?」


オズオズと言うと、羽生さんは無言のまま離れて首にかけてあったタオルで髪を拭き始めた。


自室に駆け込んで、高鳴る胸をぎゅっと押さえた。


何なの?何だったの?

今、羽生さんは何を考えていたの?

男子ってあんなに力が強いんだ。

他人の腕の中に入ったの、初めて・・・。


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