政略結婚に隠された真実
「・・・ランチ、ご馳走様でした。ありがとうございます。・・・」

ランチを大翔にご馳走になった。
おごりは嫌だと、これまた言い合いになりそうだったが、僕が誘ったんだから遠慮しないで、と微笑まれたので、それもそうか、と納得してご馳走になった。


車に戻ると、大翔が再び聞いてきた。
「どこか行きたいところ出てきた?」
「・・・じゃあ、海。でも遠かったら海じゃなくて良い・・・」
お昼をご馳走してもらった代わりに、行きたいところを、ボソボソッと、答えた。

だって、おごってもらっただけじゃフェアじゃないでしょ!
行きたいところ答えたんだから、これでパーよ!

心ではふんっとしながら、でも言葉はぼそぼそと返事をした。

「OK。海に行こう。行きたいところ、教えてくれてありがとう。」
すごく優しい笑顔で、愛梨の頭をポンポンとしながらそう言った大翔に、愛梨は少し心が痛んだ。

どんなにイヤな態度をとる愛梨相手に、穏やかで優しい笑顔を向けてくれる。

だって私が大翔の立場だったら、俺も政略結婚で好きでもないあんたの機嫌取りなんてしたくない。とか言っちゃうだろうし。


そういえば、なんでだろう?
この人にとっても政略結婚で、内心は嫌々で出かけてるかもしれないのに。
どうして、こんなに穏やかな態度をとれるんだろう。



大翔に対してすこし興味が湧いた。



海に着くまで時間がかかる、と言われた。
愛梨は自分がどこにいるかも分からず、大翔に任せていたので、道中暇になった。

車内では、大翔は嫌味にならないくらいの間隔で、愛梨に話しかけてきた。
「愛梨は、どんな音楽聞くの?好きな音楽があるならかけようか?」
「・・・特にコレってないですけど、・・・テンポが良くて明るいノリの・・・を聞きます。」
愛梨は相変わらず不機嫌そうにぼそぼそと答えた。

大翔はそんなことも気に留めずに、パネルを操作して音楽を流し始めた。
「ん~、じゃぁ、コレはどう?」
「あ!コレ、私、今一番ハマってるグループです!!」
「そうなんだ。良かった!僕もこのグループ好きだよ。明るくて元気が出る曲が多いよね。」
「そうなんでッ・・・!!」

そうなんですよッ!って言いかけて、慌てて口を両手で押さえた。
一瞬、大翔はどうした?と横を向いたけど、すぐに前を向いた。


危ない、危ない!思わずテンションが上がってべらべらおしゃべりするところだった!
私は、不機嫌だったはずよ。思わず会話が弾んじゃうところだった!
今のはセーフだわ。そう、セーフ。


愛梨が一人劇場を繰り広げている様子を、大翔はくすくすと笑っていた。
愛梨の頭の中の様子が、全部顔に出て、だだ漏れしていることを愛梨は知る由もなかった。

気分も良くなり、鼻歌を歌い始めた時、大翔が笑いながら言った。
「愛梨、だだ漏れだよ?」
「えッ!?すみません。私歌ってました?歌ってはいないつもりだったんですけど・・・」
慌てて愛梨は謝った。まさか気が付かない内に普通に歌っていただなんて!!
恥ずかしくなり、顔が赤くなって俯いた。
「謝らなくていいよ。歌ってくれても全く問題ないよ。」
相変わらず落ち着いたトーンで話す大翔に、歌ったことに対して不快に思っている訳じゃないんだとほっとした。

顔の火照りもおさまったころ、大翔をちらりと見てみた。
機嫌の良さそうな雰囲気を醸し出していたので、なんだかちょっぴり嬉しくなった。
そんな愛梨は自分の好きな匂いと音楽で気分も良くなり、鼻歌を歌っていた。
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