ライ・ラック・ラブ

私は機械的に足を動かして歩くと、バッグから鍵を取り出してドアを開けた。
脱いだ靴をきちんと揃え、黒皮のバッグと、買ったばかりの雑貨が入った紙袋を、ダイニングテーブルにそっと置く。
そして、ダイニングチェアに座った私は、ふぅと息を吐くと、バッグから携帯を取り出して、正さんの携帯へかけた。

この時間だと、正さんはまだ仕事中のはずだ。
そうと分かっている時に、個人的な用件で電話をかけたことは一度もない。
案の定、正さんは電話に出なかったので、「春花です。どうしても聞きたいことがあるので、仕事が終わり次第、新居に来てください。待ってます」とメッセージを残した。

いつも通りの動作と、普段通りの冷静な口調をしていながら、頭の中は、さっき平川さんに言われたことで一杯になっている。
でも、今はそれを考えないようにしなければ、と自分に言い聞かせることで、私は平常心を保ちながら、一点を見つめ、身じろぎせず、椅子に座っていた。

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