ライ・ラック・ラブ
それから、どれくらい経ったのか分からないけど、思ったよりも早かったことは確かだ。
玄関の方で音がしたと思ったら、足音と「春花さん?」という声とともに、正さんが来た。

「春花さ‥ここにいたのか。君から電話もらったのは初めてだから、ただ事じゃないと思って急いで来たんだけど。どうした。聞きたいことって何」

…私を心配する声音。
いつも通り、正さんは優しい。

でも私は正さんを一度も見ずに、正面を見たまま、話を切り出した。

「…さっき、平川静江さんという方に会ったの」
「えっ!あいつ…ここに来たのか!?」

…分かっていた。
平川さんの言ったことは本当だと。

私はやっと正さんの方を見ると、ニッコリ笑った。

受けたショックが大きければ大きいほど、呆然とするのを通り越して、笑顔になってしまうのは、この現実を受けとめたくないという、一種の防御反応なのかしら…。

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