好きやった。
ガラス扉の向こう。こちらに背を向けて立っている彼女からは、何やらどんよりとしたオーラが漂っているように見える。
恒例の待ち合わせのために来たものの、内心は複雑なのかもしれない。何せ今日最後に会ったときに、喧嘩で別れているのだから。
「わかっとるよ。ちゃんと仲直りする」
彼女が来ていることに、月島も気づいたらしい。寂しげな背中を労るような瞳で見つめて、決意を固めたような声で言った。
……ほんまにコイツの心は、すっかりあの子のものなんやなあ。
穴が開きそうな勢いで横顔を見つめても、もうこっちには目を向けてくれない月島を前にして……ちょっと苦しくなった。
でもウチは、月島の友達やから……。
「じゃあ、早く行ったりな」
月島の背中を、バシッと派手な音が立つほど強く叩いて前に押した。
……友達やから、ウチはコイツの後押しするのが役目やよな?
「いって! 井ノ原、おまえなあ……」
「ほらほら、早く行けって!」
「わかったわかった! やから叩くなって……いってえよ!」
あ、やば。
日頃の鬱憤晴らしで、ついつい強めに叩いてしもたかも。だけど時すでに遅し。
痛そうに背中をさする月島にあはは、と苦笑いすれば、恨めしそうに睨まれた。
まあ、ええやん……ある程度はお互い様やし。
「ったく、手加減しろよな。……じゃあ俺、行くから。日曜日、約束だかんな。忘れんなよ?」
「はいはい、忘れやんって」
「よろしくな、絶対やで。じゃあ、また日曜日にな!」
「またねー」
しつこく念を押す月島にひらひらと手を振りながら、いつものように笑顔を作って送り出す。