ビタージャムメモリ
そんなことないです、と自席に腰を下ろしながら、顔が熱くなるのがわかった。

だって自分のことのように悔しくて。

先生たちの技術が、まるで厄介者みたいに扱われているのを目の当たりにして、腹立たしくて。

そこに何も貢献できない自分が、もどかしくて。



「でも、船出できただけでもすごいことなんだよ。彼らも社内の抵抗なんて、覚悟のうちでしょ」

「それでも…」

「僕らの出番はもっと後だけど、そこでこれまで以上に戦果を挙げるために会議に呼ばれたんだ、しっかり聞いて、戦略を練ろう」



ね、とほがらかに微笑まれて、ここでも気を使わせてしまった、とまたしても落ち込んだ。



「ですよね、頑張ります」

「その意気」



──あの打ち上げが終わったある日、私は部長から、先生たちのプロジェクトの定例会に参加するよう言われた。



『えっ、でもまだ、発売時期のめどもたってませんよね?』

『むしろそういう段階から、商品がどんな流れで発売に至るのかをPR担当者として見てほしいっていう、技事からの依頼なんだよ』

『…眞下さんからのですか?』



いかにも、と部長がうなずく。



『それだけ、広報活動の必要性を認めてくれたってことだよ。いいものを作れば自動的に売れるって考えが強い開発部門で、これは革命だね』

『はい…』

『じゃあよろしく、野田くんと手分けしていいから。もう少し商品の方向性がはっきりしたら、導入戦略も立ててみて』

『は、はい』



部長の言うとおり、社内の風潮からすると、これは広報部にとって革新的な一歩だ。

とはいえ…。



「あ、香野さん、さっきはお疲れさまでした」

「あっ、お、お疲れさまでした」



廊下で柏さんにばったり会ってしまった。

思わず、近くに先生がいるんじゃないかと見回してしまう。



「眞下さんなら先に帰りましたよ」

「えっ、いえ、そんなつもりじゃ」

「相変わらずわかりやすいなあ。僕はこの後、この近くにある取引先さんのところに寄るんで、残ってるんです」


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