ビタージャムメモリ
まさかそう開き直られるとは予想外で、はあ、としか言葉が出なかった。



「私じゃダメ、でも人に頼るのもダメって、じゃあどうすればよかったわけ!?」

「いえ、あの」



よっぽどさんざん言われてきたんだろう。

かすみさんは噛みつきそうな勢いでそこまでまくしたてると、すねたようにそっぽを向いた。



「限界だったの、誰も彼もが私を白い目で見る。母は妊娠中に離婚した私を愚か者としか見てなかったし、仕事はないしお金もない」

「大変でしたよね…」

「好きで歩を手放したんじゃない。そりゃ肩の荷が下りた思いも少しはあったけど、忘れたことなんてなかった」



腕と脚を組んで、ふんぞり返るようにつんと顔をそむけていたかすみさんの声が、その時、急に潤んだ。

それを隠すように、平静を装って話し続ける。



「自分が生きていくので精一杯で、迎えに行けるようになるまでにだいぶかかった。やっと来られたと思ったら、まるで毛虫扱い」

「そりゃあ」

「どうすればいいわけ? 母親らしいことをしなかった自覚はあるわよ、でもそれはもう消せないじゃない。だからせめてこれからの歩にいいようにって」



そこで言葉を詰まらせて、黙ってしまった。

私はその隙に、彼女の横顔を眺めた。


取り繕うために嘘をついている感じじゃない。

たぶん、全部正直な気持ちなんだろう。

歩くんのことは彼女なりに愛してて、でも自分が一番という性格も直せなくて、そんな中で最善の策をとったつもりだった。


子供みたいな人だなあ。

言ってしまえば、母親には向いていないのかもしれない。

でも母として歩くんに何かしてあげたくて、してほしいこともあって、そんな愛情とわがままの狭間で癇癪を起こしてる。

なんだかちょっと、憎めない。

やがてかすみさんは、すんとかすかに鼻を鳴らし、元の尊大な態度でこちらに視線を戻した。



「で?」

「えっ、で、とは…?」

「協力してくれる?」

「説得という意味なら、できないです、すみません」

「あなたは歩のなんなの? もしくは巧のなの?」



それは私が訊きたいくらいで…。

ええと、と言葉を探してしまう。

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