ビタージャムメモリ
いくつだよ、と笑われて、やっぱりやめると言いたくなったのをぐっとこらえる。

よし、と覚悟を固めた時、ふいに、シーツの上の手を握られた。

暗い部屋で、まっすぐな目と、視線がぶつかる。



「俺、弓生のこと好きだよ」



呆然として、言葉を失ってしまった。

そんな私に、歩くんはふわりと微笑んで。



「巧兄と、うまくいくといいな」



心から願っているような、優しい声で、そう言った。


胸が熱くなった。

これは歩くんからの、最大の賛辞だ。


力の入らない腕で上半身を支えて、身を乗り出した。

ところが触れる直前で、歩くんの方が身体を引いて、自分がリクエストしたくせに、焦ったように私の口を手で遮る。



「えっ、なんだよ、そっち?」

「早くしないと気が変わっちゃうよ」

「お前が嫌がってたんじゃん…」



口をふさいでいた手をよけて、歩くんの唇にキスをした。

ありがとう。

そんな思いを込めて、一瞬のキス。



「お誕生日、おめでと」

「…サンキュ」



歩くんはよほど驚いたようで、しばらくの間ぽかんと目を丸くしてから、急に恥ずかしそうに、照れくさそうに笑い。

腕に顔を埋めて、やったー、と小さな声で言った。

窓からの明かりに浮かぶ、子供みたいなそのはにかんだ笑顔が可愛くて、すごく愛しく思えて、改めて強く感じた。


何があっても味方だよ。

私も先生も、ついてるよ。

だから怖がらないで、自分の正直な気持ち、探してね。





『そう、言わなかった。先に姉と話してからと思って』

「歩くんを、梶井さんに会わせるおつもりですか?」



うん、と考え深げな声が言う。

翌日、起きたら歩くんは出かけた後で、キッチンのお鍋にはおかゆができていた。

先生に、心配させたお詫びのメールをすると、少したって『具合はどう』と電話がかかってきたのだ。

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