ビタージャムメモリ
『最終的には歩の意向を聞くけれど、彼に会っておくのは、プラスの方が大きいと俺は思ってる、今のところ』
「あの、もし会う日取りが決まったら、私にも教えていただけますか。気になって…」
『そのつもりだよ、というか今朝のうちに姉とは話がついて、会うとしたら年明け、三が日が明けてからの土曜ってことになった』
「えっ、歩くんはそれ、もう知ってますか?」
『電話が繋がらないんだ。歩の行き先を知らないかな』
残念だけど、知らない…。
歩くんは日中も、けっこう出歩いていることが多くて、当然ながらいちいち私に行き先を告げたりはしない。
そう説明すると、先生は特に気にする様子もなく、だろうね、と息をついた。
『いつものことだ。まあいずれ捕まるだろう』
「戻ってきたら、連絡入れますね」
『ありがとう。昨日歩から聞いたんだけど、今日が誕生日なんだってね、おめでとう』
うわ!
ベッドの上で、思わず姿勢を正した。
「あっ…ありがとうございます」
『何か欲しいものがあれば教えて。歩の件でのお礼も兼ねて、香野さんには一度ちゃんとお返しをしないとと思ってるから』
「いえ、そんな」
反射的に断ろうとしてから、ちょっと待てよと思いついた。
えい、甘えてみちゃえ。
「じゃあ、あの、せ、先生とどこか行きたいです。食事でも、飲みでも…」
すぐに返事がなかったので、一瞬で絶望した。
なんだこいつ、と思われただろう、たぶん。
涙目になって、やっぱりいいです、と言いかけた時、軽い笑い声が耳に届く。
『今度、俺の方から誘うよ、じゃあね』
気づいた時には、通話の終わった携帯を持ってぼんやりしていた。
…誘ってくれるって、先生。
うわあ、何これ。
どうしてわざわざ電話を? と思っていたんだけど。
もしかして、おめでとうを言うためだったりするんだろうか。
先生にとっては冬休みの最初の日で、仕事のことを忘れてゆっくりしたいだろうに。
そんな中で私のことを、少しでも考えてくれた。
そう思っていいってことだろうか。
嬉しすぎて心臓が痛くなって、ベッドの上で身体を折った。
先生、好きです。
幼い憧れだった五年前より、もっと。