ビタージャムメモリ
いらないものは欲しがらない。

必要なものは獲る。

会社という大きな組織において、そのシンプルな姿勢を貫ける人が、いったいどれだけいるだろう。



「うちにこんなもの、あったんだ」

「先日、見つけておいたんです」



キッチンの収納の奥のほうから寿司桶を引っ張り出すと、先生が目を丸くした。

お母さまが亡くなった時、実家からいろいろなものを引き揚げてきたらしく、男性二人暮らしのわりにここのキッチンは充実している。

先生が知らないのなら、歩くんが管理しているんだろう。

かび臭くなっていないのを確かめてから、ざっと洗って炊きたてのご飯をどさりと開けた。



「我が家では、お祝いごとはちらし寿司って決まってるんです」

「すごい量だね」

「桶が大きかったので…」



どう見ても三人前って量じゃないけど、うちふたりが男の人で、しかも信じられないほど食べる歩くんがいるとなれば、食べきってしまう可能性もある。



「歩くん、背が伸びましたよね。さっき見たら、先生ともうそんなに変わらないくらいでした」

「えっ」



えっ。

予想外の反応をされた。

隣で、歩くんが好きだというバゲットサンドを手際よく作る先生が、微妙な顔をしている。



「男の人って、何歳くらいまで伸びるものなんですか」

「俺は高二あたりで確かもう、止まりかけてたかな。歩のほうが奥手なんだろうな」

「あれだけ食べてたら、そりゃ伸びますよね」

「そのうち追い抜かれそうだなあ」

「ショックなものですか?」

「そんなことないよ」



棒読みだ。

家で煮込んできた具材を酢飯に混ぜ込んで、錦糸卵を散らして、ちらし寿司は完成。

布巾をかけてテーブルの中央に置き、ノンフライポテトを作るべくオーブンを予熱して、じゃがいもを洗う。

これができあがったら、買ってきた唐揚げと一緒に盛りつけて、ミニトマトを飾って、ええっと、その次は…。



「弓生?」

「えっ、は、はいっ」

「聞いてた?」


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