ビタージャムメモリ
わっ、聞いてなかった。
「すみません、なんでしょう」
「荷物がひとつ足りない気がする」
「え」
言われて、カウンターの上に並べた紙袋やビニール袋を数える。
買ってきた生鮮、お惣菜、お菓子、飲み物…あっ。
仕込んできたサラダがない。
たぶん、助手席の足元に置きっぱなしだ。
「すみません、取ってきます」
「いや、俺が行くよ、残りやってて」
私の肩に手を置いた先生が、見上げる視線に気づき、足を止める。
「何?」
「歩くんとやっぱり似てるなあと、声」
「そう?」
「呼ばれる時の感じなんて、そっくりで」
「間違えないでね」
笑顔で釘を刺し、車のキーを手に出ていった。
先生が、弓生と呼んでくれるようになったのは、わりと最近だ。
文字のほうが適応が早くて、すぐにやりとりの中で使ってくれるようになったんだけど、声に出して呼ぶとなると、それなりに準備期間が必要だったらしい。
あれから私と先生は、予定が合えば土日に会って、食事をしたり買い物をしたり、ドライブしたりするようになった。
ある時、人込みの中で先生を見失ってしまい、まごついていると、さっきみたいに『弓生』と呼ぶ声がして。
一瞬、歩くんが現れたのかと思うほど似ていたその声に、私は初めて呼んでもらえた感動も忘れて驚いてしまった。
先生は先生で、それが初めてだという自覚もなかったらしく、呆然とする私を不思議そうに見て。
遅まきながら赤くなった私の説明を聞いて、困ったように笑った。
さすがにもう慣れはしたけど、それでも呼ばれるたび、胸が鳴る。
一回呼ばれるごとに、ちょっとした嬉しい何かが貯まっていく。
そんな感覚を楽しんでいる。
「今度は何?」
生クリームを泡立てているところに、先生が戻ってきた。
サラダの容器を冷蔵庫に入れ、私の手元を覗く。
「ケーキです、スポンジだけ焼いてきたので、これからデコレーションするんです、歩くんの好きなココアクリームで」
「相変わらず甘やかしてるね」
「プレートも作ってきたんです、メッセージ書こうと思って」
「…なんて?」
「すみません、なんでしょう」
「荷物がひとつ足りない気がする」
「え」
言われて、カウンターの上に並べた紙袋やビニール袋を数える。
買ってきた生鮮、お惣菜、お菓子、飲み物…あっ。
仕込んできたサラダがない。
たぶん、助手席の足元に置きっぱなしだ。
「すみません、取ってきます」
「いや、俺が行くよ、残りやってて」
私の肩に手を置いた先生が、見上げる視線に気づき、足を止める。
「何?」
「歩くんとやっぱり似てるなあと、声」
「そう?」
「呼ばれる時の感じなんて、そっくりで」
「間違えないでね」
笑顔で釘を刺し、車のキーを手に出ていった。
先生が、弓生と呼んでくれるようになったのは、わりと最近だ。
文字のほうが適応が早くて、すぐにやりとりの中で使ってくれるようになったんだけど、声に出して呼ぶとなると、それなりに準備期間が必要だったらしい。
あれから私と先生は、予定が合えば土日に会って、食事をしたり買い物をしたり、ドライブしたりするようになった。
ある時、人込みの中で先生を見失ってしまい、まごついていると、さっきみたいに『弓生』と呼ぶ声がして。
一瞬、歩くんが現れたのかと思うほど似ていたその声に、私は初めて呼んでもらえた感動も忘れて驚いてしまった。
先生は先生で、それが初めてだという自覚もなかったらしく、呆然とする私を不思議そうに見て。
遅まきながら赤くなった私の説明を聞いて、困ったように笑った。
さすがにもう慣れはしたけど、それでも呼ばれるたび、胸が鳴る。
一回呼ばれるごとに、ちょっとした嬉しい何かが貯まっていく。
そんな感覚を楽しんでいる。
「今度は何?」
生クリームを泡立てているところに、先生が戻ってきた。
サラダの容器を冷蔵庫に入れ、私の手元を覗く。
「ケーキです、スポンジだけ焼いてきたので、これからデコレーションするんです、歩くんの好きなココアクリームで」
「相変わらず甘やかしてるね」
「プレートも作ってきたんです、メッセージ書こうと思って」
「…なんて?」