ビタージャムメモリ

「なんで先生はそんな怒ったんだ?」

「わからない」

「まあでも、向こうはいい大人だろ? まともな奴なら、弓生相手にそこまで本気で怒りゃしねーよ」

「でも実際、怒ってたの」



思い出すのも怖い、先生の冷たい眼差し。

それ以上踏み込んだら容赦しない、と明白に伝えていた。



「どうしよう…」

「そんなん、悩んだってしょうがねーじゃん、今日は飲んで、土日くらいそれ忘れろよ、おごってやるからさ」



な、と抱いた肩を揺すられる。

口は悪いままだけど、気持ち悪いくらい優しいなと思って見上げると、綺麗な顔がにこりと笑った。

相変わらず、信じがたいくらい整った顔だなあ。


ふいに頭のてっぺんにキスをされた。

実にさりげない仕草だったので、かえって驚かなかった。



「何?」

「お前、可愛いよ、弓生」



訳知り顔に笑ってみせる歩くんに、さすがにあきれてしまう。

近くで見ると、この子は本当に若い。

若いというか幼い。


なのにお前とか、可愛いとか。



「生意気」

「そう言うなって」



楽しそうに言って、歩くんはまた顔を寄せてきた。

そして驚くほど自然に、今度は私の唇にキスをした。


え。


軽い音と一緒に降らされた、一瞬だけのキス。

ぽかんとする私に、彼がにやっと笑う。


…いやいや。

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