ビタージャムメモリ
ゆうべの出来事が思い出されてくる。
でもそれは断片的で、情報量としてはとても一晩分には足りない。
歩くんは言っていたとおり、日付が変わる前に仕事から上がって、私服になって私と一緒に飲んでくれた。
軽そうなニットパーカを着ていて、可愛いなあと思ったのをかろうじて覚えているくらいで。
何を話したのかすら…もちろん先生のことだろうけど、記憶にない。
「とりあえず服を着て。駅まで送るから」
呆然とする私に、先生がかけたのはそんな言葉だった。
「巧兄がそこまでする必要ないって、疲れてんだろ」
「お前も後で、話があるからな」
「ちぇ」
歩くんを連れて、先生は部屋を出ていった。
ドアが閉ざされ、再びひとりになると、改めて恐ろしいほどの焦りが実感を伴って押し寄せてきた。
私はほぼ裸で、たぶん先生の家の、歩くんの部屋にいる。
どうやってここまで来たかも覚えていないのに。
「甥だよ、姉の子だ、ちょっと事情があって預かってる」
「あの、彼、おいくつですか…」
「17歳だ」
「じゅ…」
17歳、と私は助手席で、声をあげそうになったのをこらえた。
予想していたより、さらに若い。
先生が一瞬、視線を私にやる。
「今年18になる、だがまだまだ、大人の監督が必要な年齢だ」
その言葉は暗に、いい年したお前が一緒にいながら、大事な歩に何をさせたんだと私を責めていた。
私が何か説明したところで、聞いてもらえる気がしない。
何もかもを否定したかったけれど、そもそも記憶がないのでひとつも自信を持って言えることがなく。
運転席のほうをまともに見ることもできず、震えていた。