ビタージャムメモリ
歩くんが家に女の子を連れ込むこと自体は、過去にもあったんだろう、事態をどう見ているのかはさておき、先生が平静を取り戻すのは早かった。

ただし私に対する態度は終始冷ややかで、口調は冷たく、もはやひとかけらの信頼も、そこには見いだせなかった。


5分もせずに着いたのは、先生たちの働く事業所からほど近い駅だった。

自家用車の乗降エリアに停車させるなり、ドアロックが解除され、その音が、さっさと降りろと言っているように聞こえる。



「あの、私、歩くんとはなんでも…」

「その話は、歩から聞く」



こちらを見てくれもしない。

涙をこらえて車を降り、頭を下げた。



「お邪魔、しました…」



返事をする代わりに、先生は車を発進させた。

混乱した頭に、遠ざかるその音だけ、はっきり響く。


涙の粒が、地面に落ちた。





一時間ほどかけて家にたどり着いたのは、お昼過ぎだった。

私は茫然自失で、服を脱ぐのが精一杯。

シャワーも浴びずに布団にもぐった。

もしかして全部夢で、寝て起きたら消えているかも。

そんな空想に頼らないと正気を保っていられないくらい、打ちのめされていた。


どういうこと?

どう考えたって、歩くんは全部知っていて、私をあそこへ連れ帰ったんだ。

もっとも誤解を招く状況下で、先生と鉢合わせさせるために。


私と歩くんが何かあったわけじゃない。

それだけは身体の感覚から、確信が持てる。


だからこそ、わからない。

どうして、あんなことをしたの。

私に恥をかかせたかったの?


いつからそうしようと狙ってたの?

私のこと、どんなふうに見てたの?


私、何かした?

歩くん…。



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