ビタージャムメモリ

「眞下さんも何か、見解がおありですかね」

「うーん、どうだろう、我々もあの記事が出て以来、直接話せていないので」



野田さんの投げた話題に、どきっとした。



「でもメールは読んでいるはずですし、何か言いたいことがあれば即連絡飛ばしてくる人ですから」

「野田さんたちのカバーを信頼しますって感じだと思いますよ」

「そうですか、ありがたいです」



ほっとした様子の野田さんの横で、私は会議を始める準備をした。

信頼、してくれているんだろうか。


そうでありますように。

祈るような思いだった。





「ちょっとまずい空気だねえ」

「そうですか…」

「向こうの編集長にアポを取らせてもらおうとしてるんだけど、なんだかんだ理由をつけて、会ってもらえないんだよね」



かなり心証を害しているということだろうか。

部長の話を聞きながら、野田さんとため息をついた。



「開発のほうは、どう?」

「広報部の失態を責めたりはされませんでした。が、やっぱり不安は生じていると思いますよ、全てのメディアが味方なわけじゃないと知ったわけですから」

「だよねえ、心配かけちゃったね。僕からも向こうの部長さんに連絡入れておくよ」



軽い情報共有の場所は、重苦しい空気に包まれた。

お客様集めも、思ったようにはなかなかいかない。

当選のご連絡をしたお客様が、要項をよく読んでおらず、小さな子供を同伴させたいと言ってきたり、交通費の額の不公平について苦情をくれたり。



『こういうことは、必ず起こるものですよ、事務局のほうで対応しますから、任せてください』



代理店さんはそう言ってくれるものの、日頃お客様との接点がないだけに、私たちの会社は一度悪印象を持たれたら、挽回のチャンスがない。

わずかな気の緩みも許されないのだという気がして、休まらなかった。



「発表そのものの準備が一番順調かもしれませんね、なんせ開発の方々が驚くほどプレゼン慣れしてるので」

「それは救いだねえ」


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