ビタージャムメモリ
部長がうんうんとうなずく。

でも私は、そのことがかえって、広報部として恥ずかしく思えて仕方なかった。

私たちはいったい、なんのプロなんだろう。

任せてほしいと胸を張れる部分が、全然ない。


なんだかもう、どん底の気分だった。





夜、時間を持て余すといろいろ考えてしまいそうで、何か作ろうと冷蔵庫を漁った。

賞味期限ぎりぎりのバターが見つかったので、クッキーを作ることにする。

卵はないので、入れないレシピで。


持ち帰ってきた社用のPCで、先生からもらったプレゼン資料を確認しながら材料を混ぜる。

読みやすくて、わかりやすい内容。

先生はこういうものを部下に任せきりにせず、大半を自分で書くのだと柏さんが言っていた。



『人に書かせたものを読んでいるだけのプレゼンは、国会答弁並みに響かないって言ってね、実際誰よりもまとめるのがうまいし』



先生。

いろいろとお話ししたいことがあります。

でももう、近づかないほうがいいですか。


生地を並べた天板をオーブンレンジに放り込んだ時、ベッドの上の携帯が鳴っているのに気がついた。

そこそこ長いこと鳴っていた気配がするので慌てて駆け寄って、一瞬、対処に困った。





歩くんは、"悄然"てこういうことを言うんだなという様相だった。

肩を落として、むくれているような傷ついているような、への字口をしている。

罵声が飛んでこないのをいいことに、私はその顔を観察した。



「言われてみると、やっぱり先生と似てるところ、あるね」

「ガキの頃とか、そっくりだったらしいぜ」



呼び出されたのが都心のバーだったので、私は合流するとすぐそこを引き上げさせて、近くの深夜営業のカフェに移動した。

17歳と知った以上、お酒を出すお店になんて置いておけない。



「歩くんも大人になったら、先生みたいになるのかな」

「どうかなあ、俺の顔はなんていうか、女っぽいほうに来ちゃったから…」


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