ビタージャムメモリ
野田さんはそれを私に伝え忘れており、結局私は会場からホテルに行き、シャワーを浴びて着替えて、チェックアウトをしてもう一度会場に来た。

安堵と疲労で、今日これから発表会本番なんて信じられないくらい参ってるんだけど、大丈夫かな、私。


ちなみに先生のほうは時間に余裕があったので、その足で歩くんを病院に落とし、ホテルに置いてある荷物を取りに行った。

そこで柏さんたちと合流したんだろう。



「歩くんは?」

「念のための再検査だから、問題はないと思うけど、だいぶ待たされてるみたいで、さっきから文句のメールがたびたび来てる」

「総合病院って、混んでますもんね…」

「まあ、これも無茶をした罰だ」



保護者らしくそう言いきり、先生は胸ポケットから煙草を出して、控え室を出ていった。



「なーんか、仲いいっすよね、香野さんと眞下さん」

「え、えっ?」



揶揄の声に慌てて顔を向けると、プロジェクトの4人がにやにやしながらこちらを見ていた。

発言したのは一番若い、萩野(はぎの)さんという人だ。

でも他の人たちも何か言いたげにしている。



「いいなー、まあうちのグループ長、かっこいいすからね」

「独身だしね」

「香野さんはああいうタイプがいいんですかね」



えっ、えっ?

わ、私、何か顔に出てた?

いきなりそんなことを言われだしたので、すっかり焦ってしまう。



「あの、私、別に」

「真っ赤になっちゃうしなあ、なんだ眞下さんばっかり」

「お前ら、勝手なこと言ってるなよ」



わあっとみんなが飛び上がった。

出ていったと思っていた先生が、突然戻ってきたからだ。



「煙草吸いに行ったんじゃなかったんすか」

「ライター忘れた、誰か持ってないか」

「あ、僕一緒に行きます」



柏さんがそそくさと席を立つ。

火のついていない煙草をくわえた先生が、私の横を通りすぎる時、声をかけてくれた。

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