ビタージャムメモリ
「ごめんね、こいつら、緊張して舞い上がってるんだ」
「子供っすか、俺ら!」
「似たようなもんだろ、香野さんに絡みやがって」
「だって実際、なーんか親密じゃないすか」
「香野さんには、もう相手がいるよ」
えっ?
そうなんですか、という柏さんの驚きの声を引き連れて、先生は部屋の外へ消えてしまった。
残された3人と、目が合う。
「…そーなんすか?」
「えっ? ええと…」
「なーんだ、眞下さんじゃなかったんだ」
杉浦さんがなぜか残念そうに言った。
…んん?
何かおかしいぞ、と思わなくもなかったけれど、とりあえずこの場を乗り切れたことにほっとし、私はすぐにそれを忘れてしまった。
発表会は大成功だったと言っていいと思う。
記事も口コミも、明日以降にならないと本格的には出てこないので、確実なことは言えないけれど。
それでも、手応えを感じたのは私だけじゃないはずだ。
「みなさん、お疲れさまでした」
「いや、こちらこそいい経験をさせてもらいました。ありがとうございます、ほんとに」
会場のロビーで最後のお客様をお見送りした後、プロジェクトの面々に頭を下げると、柏さんが充実した笑顔を見せてくれる。
私も含め、みんな、やりきった感に満ちていた。
「部長が改めてご挨拶させていただきますので、控え室でお待ちいただいていいですか」
「もちろん、じゃ一度戻るか」
「本当はこの後、お食事でもと思ったんですが、私たちのほうが撤収作業で、抜けられなくて。今度改めて打ち上げをさせてください」
「ぜひぜひ。あっ、なら眞下さん、今夜はこっちで飲んでいきましょうよ」
交換した名刺を手元で整理していた先生が、ん、と顔を上げる。
「今日は酒がうまいですよ、この間のバー行きましょうよ」
「あ、悪い、俺、今日は…」
あっ、先生…!
止めるより先に、「車で」と先生は言ってしまった。