ビタージャムメモリ
同意を求められた先生は、私のほうを見もせずに、そうですね、とそっけなくうなずいた。
胸が張り裂けそうになった。
先生、覚えてませんか。
何年も前に、同じ会話を、学生のひとりと交わしたことを。
「それで、営業の後は?」
「今と同じ、開発のほうに配属されまして、当時はまだ先行技術という扱いだった、電子頭脳系の開発を」
「その経験が今に生きているわけですか」
「ええ、単純に言ってしまえば」
経済紙のライターさんは、もしかしたら技術系の人にインタビューする機会が珍しいのかもしれない。
すっかり興味を惹かれたようで、技術のことから先生自身のことまで、根掘り葉掘り探りを入れてくる。
辛抱強くそれに答える先生を見ながら、改めて疑問が湧いた。
先生は新卒で、この会社に入ってる。
教職から移ってきたわけでも、途中で離職したり、アカデミックな業務を受け持ったりしたわけでもない。
私の大学にいた、あの期間はなんだったんだろう?
「よかったじゃん、ひとまず難を逃れたんでしょ」
「そういうことになるのかな…」
混雑したクラブのフロアを、目的もなく歩く。
暗がりの中、ステージのライトが思い出したようにフロアにも降り注ぎ、ピンクや紫のドットを作る。
「どうよ、やっぱり素敵だった?」
「もう、緊張して、それどころじゃ…」
「"氷"ってねえ」
どれだけ冷たいのよ、と早絵が笑った。
私は、そのあだ名もわからなくもない、と嘆息する。
彼のグループはこれまで、会社からスポイルされていたようなものだ。
実現できたらラッキー、くらいの無責任な期待のもとに、一部署をぽいと任されて。
それでも自分の研究が必ず人のためになると信じて、会社が出し渋る予算をねじ取り、チームメンバーを鼓舞し、ついに発表にまで至らせた。
胸が張り裂けそうになった。
先生、覚えてませんか。
何年も前に、同じ会話を、学生のひとりと交わしたことを。
「それで、営業の後は?」
「今と同じ、開発のほうに配属されまして、当時はまだ先行技術という扱いだった、電子頭脳系の開発を」
「その経験が今に生きているわけですか」
「ええ、単純に言ってしまえば」
経済紙のライターさんは、もしかしたら技術系の人にインタビューする機会が珍しいのかもしれない。
すっかり興味を惹かれたようで、技術のことから先生自身のことまで、根掘り葉掘り探りを入れてくる。
辛抱強くそれに答える先生を見ながら、改めて疑問が湧いた。
先生は新卒で、この会社に入ってる。
教職から移ってきたわけでも、途中で離職したり、アカデミックな業務を受け持ったりしたわけでもない。
私の大学にいた、あの期間はなんだったんだろう?
「よかったじゃん、ひとまず難を逃れたんでしょ」
「そういうことになるのかな…」
混雑したクラブのフロアを、目的もなく歩く。
暗がりの中、ステージのライトが思い出したようにフロアにも降り注ぎ、ピンクや紫のドットを作る。
「どうよ、やっぱり素敵だった?」
「もう、緊張して、それどころじゃ…」
「"氷"ってねえ」
どれだけ冷たいのよ、と早絵が笑った。
私は、そのあだ名もわからなくもない、と嘆息する。
彼のグループはこれまで、会社からスポイルされていたようなものだ。
実現できたらラッキー、くらいの無責任な期待のもとに、一部署をぽいと任されて。
それでも自分の研究が必ず人のためになると信じて、会社が出し渋る予算をねじ取り、チームメンバーを鼓舞し、ついに発表にまで至らせた。