ビタージャムメモリ

「もう少し待っててくれたら、夜休憩の時間に入るから、その間なら抜けられるかな…」

『じゃあ合流な、俺と巧兄は先に食ってるからさ』

「身体は大丈夫なの?」

『まー痛いけど、腹は減ってるし、この顔じゃバイトも無理だし。店決めたら連絡するよ、後でな』

「うん、ありがと」



電話を返すと、先生が心配そうに尋ねてきた。



「大丈夫? また歩が無理言ったんじゃ…」

「いえっ、問題ないです、撤収も、会場の返却時刻までに終わらせればいいだけなので、けっこう余裕あって」



浮かれが顔に出すぎてやしないかとあたふたしながら答えると、そう? と先生が首をかしげる。



「はい、なので」

「じゃあ、僕は柏たちのほうにつきあってこようかな」

「え?」



なんでそうなるの?



「…ご一緒できるのかと」

「でも、僕がいたら邪魔じゃない?」

「邪魔?」

「せっかくなんだし、歩とふたりのほうが、いいでしょう」



当然のことのように言われる。

バインダーを胸に抱えて、えーと、と考えた。

ちょっと前から、なんだかおかしいと思ってたんだよね。

先生、もしかして。



「じゃ、歩によろしく」



立ちすくむ私に、そう優しく微笑んで行ってしまう。


えーと。

もしかして、私と歩くん、誤解されてる?

ゆうべの"歩をよろしく"って…そういう意味?


立ち去る背中に、すがりついて訂正を促したかったけれど何を言っていいのかわからず、硬直したまま見送る。

歩くん、大変だよ。

大変だよ…。


先生、それ、違います──…



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