ビタージャムメモリ
「俺なんかことあるごとに『彼女はいい人だ、迷惑かけるな』とか言われてんだぜ、お前、好きな奴にそんなこと言わせといて、悔しくねーのか」
「別に私、好きとか」
「今さらしらばっくれてんじゃねーよ!」
「歩くんはいったい、どのポジションなのよ!」
お互いテーブルを叩いた。
近づくなって言ったくせに!
いきなりフォローしてくれるとか、フォローしすぎて変な誤解を与えるとか、好きって認めろとか、よく考えたら勝手すぎない?
歩くんはいかにもイライラと片手をポケットに入れて、知らねーよ、とそっぽを向いた。
「巧兄に女が近づくのは嫌だけど、お前には借りもあるし、お前自体は嫌いじゃねーしって、そんなとこだよ」
「敵なのか味方なのかくらい、一本化してよー…」
「7:3で敵と思っとけ」
「敵の成分、多い!」
「甘えんな、そもそもてめーがぐずぐずしてっから悪いんだろ!」
ぐずぐずって何よ!?
私はただ、毎日真面目に仕事してただけだ。
仕事してたら、先生に会って。
歩くんにも会って。
…いろいろされて。
「黙んな」
「携帯鳴ってるよ」
「わかってるよ、無視してんだろ」
「女の人?」
震える携帯を、うるさくないようおしぼりの上に載せながら、歩くんはふんと鼻を鳴らした。
もう、これこそ巧先生が好まないところだろうに。
「…あのクラブの店長さんと、まだややこしい感じなの?」
「知ってんだ。まさにその店長の女からだよ、しつこいったらねえ」
携帯の画面を指先で叩いて、吐き捨てるように言う。
「もしかしてタトゥーもその人?」
「そう」
「…いくつくらいの人?」
「さあ。店長が40超えだから、まあ30代じゃね?」