性悪女子のツミとバツ

ツミもバツも


「あなた、いつから私の恋人になったの?」

それが、病院のベッドの上で彼女が、俺に対してはじめに発した言葉だった。

救急車で搬送された彼女は、多量の睡眠薬を服用していたことから、なかなか目覚めなかったが、翌日には意識が戻った。
俺は知らなかったが、医師に聞いたところ、どうやら現代の睡眠薬は多少飲み過ぎたくらいでは、すぐに命に関わることはないらしい。
とはいえ、あの状況で素人がそれを判断できる訳もなく、結果的に救急搬送したのは正解だったらしい。

仕事後に訪ねていくと、彼女はベッドの上でとても不機嫌そうにこちらに顔を向けた。

「誰から、それを?」
「先生に聞いたの。恋人が早めに気が付いてくれてよかったねって。」
「そう。仕方ないだろう。まさか、セフレだって言うわけにもいかないし。」

あの日、彼女の容態を聞くため、救命医に迷うことなく彼女の恋人だと名乗った。
ただの同僚では、その後、丸一日彼女に付き添うことも許されなかっただろうから、結果的にその判断は正しかった。

会社へは、病院から連絡を入れた。
どうやら、松岡さんが夫であり、俺の上司である佐藤さんに事情を伝えてくれていたらしい。
突然血相を変えて、営業車でエスケープした俺を、誰も咎めることはなかった。
状況を報告すると、彼女の家族の連絡先を伝えられ、ついでに、俺の休暇の事後承認と、翌日午前中までの営業車の使用許可をもらった。
急いで彼女の実家に連絡すると、夜のうちに九州から両親が駆けつけた。成り行き上、彼らにも恋人だと名乗った。
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