うそつきハムスターの恋人
どれくらい眠っていたのだろう。

喉はまだ痛いけれど、頭痛はおさまっていた。
布団の中で少しだけ頭を動かすと、すぐ後ろで「しずく?」と声がした。
布団から目だけ出して見ると、夏生がベッドの脇に座って私を覗き込んでいる。

夏生は手のひらを私のおでこにあてて、「まだ熱いな」と心配そうな顔をして言った。

ひんやりとして大きな夏生の手のひらが気持ちよくて、しばらくこうしていて欲しいと思ってしまう。

「……今、何時?」

ひどい鼻声で私は訊ねた。

「しずくの声、ちょっとセクシーかも」

夏生はおでこから手を離して笑う。

「今、十一時すぎ」

「そんなに寝てた?」

「うん。ていうかこの部屋、北側だから寒いな。普段使わないからエアコンもないし。しずく、今日から俺のベッドで一緒に寝たら?」

夏生は、今日のランチはパスタにする?とでも言うような気軽さでそんなことを言った。

「……なに言ってるの? そんなの無理。絶対に無理」

私は考えるまでもなく即答する。

「だって、また風邪ひくだろ?」

「……でも、無理」

「なんでだよ?」

「……なんでって」

私たち、本当の恋人でもないのに。
一緒のベッドでなんて寝られるわけない。

「一緒に寝るって言っても、俺なんもしないって。腕こんなんだし」

夏生はギプスを見せておかしそうに笑った。

「絶対に指一本触れないって約束しただろ?」

そう言って、夏生は私の鼻の頭を人指し指でつついた。
もうこの約束はとっくの昔に破られているけど、私はなにも言わなかった。
夏生だって、わかっているはずだ。

「だからおいで、俺の部屋」

そう言って夏生はふわりと笑う。
夏生はずるい。
こんな時に限って、うんと優しい顔で笑うんだから。

「……わかった。また、風邪引いたらいやだし」

この部屋はたしかに寒い。
私は寒いのが嫌いだから。
ただ、それだけだから。

心臓の鼓動が激しいのは。
きっとそれは熱のせい。

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