うそつきハムスターの恋人
目を開けた時、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。
またうつらうつらしていたようだ。

「しずく? 起きた?」

夏生が気づいて私の方に体を傾ける。

夏生の顔が近くて、恥ずかしい。
まっすぐに見られず、目が泳いでしまった。

「まだ熱あんのかな?」

夏生はそんな私におかまいなしで、私のおでこに手のひらをあてた。

「お。だいぶ下がったな」

ほっとしたように笑う。

「水、飲む?」

私が首を横に振ると、「じゃあアニメでも見る?」と訊ねる。

「夏生?」

「ん?」

「今何時?」

「えーっと、五時過ぎ」

「会社、休んで大丈夫だったの?」

「今さら言うか? それ」

夏生はおかしそうに吹き出した。

「俺、有休まったく消化してないから。それに、スーパーバイザーって意外と時間が自由っていうか。ほら、担当の店にSVチェックに行くのもアポなしだし、上司の人も割と俺の好きにさせてくれてるから、一日くらい休んでも大丈夫なんだよ」

夏生はそう言うけど、何度か夏生の携帯が鳴って、夏生が電話で話しているのが夢の中で聞こえていたから、本当はすごく忙しいんじゃないかと思う。

「明日は週末だし、もししずくが元気だったら一緒に行きたいところがあったんだけど、この土日はまだ厳しそうだな」

タブレットでアニメの動画を検索しながら、夏生が何気なく言った。

「……行きたいところ?」

「うん。今は車の運転ができないから、電車だけど」

「どこ?」

「ないしょ。来週、行けたら一緒に行こうか」

別にいいけど、と言いながら、私は目の下まで布団をかぶる。

思わずにやけてしまった頬を、夏生に見られないように。
うっかり来週のお休みを待ち遠しいなんて思わないように、細心の注意をしながら。

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