うそつきハムスターの恋人
加地くんの挑発
週明け、月曜日の朝は秋晴れのとてもいいお天気になった。

私の熱はすっかり下がり、喉の痛みも頭痛もおさまったけれど、鼻声だけは治らない。
風邪をひいた後はいつもこうなってしまう。

「でも、その声セクシーで俺は好き」

朝ごはんの支度をしていたら、夏生がやってきてカウンター越しに、なんでもいいからしゃべってみて、と言う。

「うるさいな」

「おお、セクシー」

私がわざとしかめつらをすると、夏生は声を出して笑った。

違うのに。
ありがとう、って言いたいのに。

ずっと、そばにいてくれてありがとう、って。

だって、私はまだ一度もありがとうを言ってない。

金曜日から日曜日まで、私はほとんどの時間をベッドの中で過ごした。
夏生はアニメを見せてくれたり、本を読んでくれたり、おかゆを作ってくれたり、スポーツドリンクを買ってきてくれたりと、あらゆる限りのお世話をしてくれた。
ほとんど甘やかされた、と言ってもいい。
「体を拭いてやろうか」という提案だけは丁重にお断りしたのだけど。

「ネクタイ締めて、しずく」

夏生が持ってきたのは、紺地にストライプ柄のネクタイだった。

「今日はしずくとお揃い」

どうにかこうにか締め終わると、夏生がそう言って笑った。

「お揃い?」

意味がわからず聞き返した後、自分のスカートを見て気づいた。

私は紺色のフレアスカートをはいていた。
ストライプ柄の。

「気づく人、いるかな」

夏生はどこか嬉しそうに言って、靴をはいた。
ドアを開けると、三日ぶりの太陽の光に一瞬目がくらむ。

「病み上がりだからあんまり無理すんなよ。あと、今日は俺エリア会議だから帰り遅くなるし、先に寝とけよ」

夏生は、会社に続く街路樹が並んだまっすぐの道を歩きながら言う。

「ご飯は?」

「会議八時からだし、その前に軽く食べるから今日はいいよ」

そっか。
今日はひとりか。

夏生と一緒に住む前までは当たり前だったことが、今日はなぜか心細く感じられて戸惑った。
< 27 / 110 >

この作品をシェア

pagetop