うそつきハムスターの恋人
運営部のガラス扉の前で、手にした封筒をもう一度見つめる。

本当にこれ、あの宮下さんだろうな。
違う宮下さんだったら、許さないんだから。

ドアノブにそっと手をかけて部署内に入る。
奥の方の席に、夏生のうしろ姿が見えた。
見渡したのは一瞬だというのに、私の目はどこにいても夏生を見つけることができる。

夏生がこっちを振り向いた瞬間、私は一番近くのデスクにいた男性社員に声をかけた。

「お疲れ様です。宮下さんはいらっしゃいますか?」

私の顔を見ると、その人は一瞬驚いたような顔をした。
周りの社員にも見られているような気がするのは、気のせいだろうか。

男性社員は軽く咳払いをしながら、部署内を見渡し、宮下さんのものらしきデスクを指差すと「あそこなんだけど、今は席はずしてるみたいだね」と教えてくれた。

「渡しておこうか?」

本人かはっきりしないのにこれを預けて、もし違う『宮下』さん宛だったら迷惑がかかる。

「いえ、大丈夫です」

ありがとうございました、とお辞儀をしていたら、その人が「あ、帰ってきた」と私のうしろを見て言った。

「あ、しずくちゃん」

声が聞こえて振り向くと、宮下さんが大きなビジネスバッグを持って立っている。
出先からちょうど今戻ってきたようだ。

「お疲れ様です。これ、うちに配送されてきたんですけど……」

「ちょ、ちょっと、いい?」

宮下さんは、私の話をさえぎると、バッグを足元に置いて、私の背中を軽く押し、追い出すように部署を出た。

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