うそつきハムスターの恋人
「一ヶ月も経たずにぽいと捨てるなんて、やっぱりあいつはそういう男だったのよ。ちょっとかっこいいからって、調子に乗ってる」

さっきから、喜多さんは私が捨てられた前提で愚痴っている。

周りから見たら、そう思われても仕方ないかもしれないけど。
私は心の中で苦笑した。
かっこよくて人気者の水嶋夏生と、『垢抜けない感じの』私だもんね。
それは仕方ない。
いまさら、そんなことで傷ついたりはしない。

「あんな男のことはきれいさっぱりと忘れて、新しい恋をしなさい」

それが一番よ、とほんのり赤い頬をした喜多さんが慰めてくれた。

「加地ー、いい人紹介してあげてよ」

急に話を振られた加地くんは、ほっけの小骨を取り除いていた手を止める。

「いやですよ」

「いやとはなんだ! 先輩に向かって」

喜多さんは握りこぶしで机をどんと叩く。
それを見た加地くんは笑いながら私に「してほしい?」とたずねる。

私が首を横に振ると「だそうです」と喜多さんに向かって言った。

「あっそ。そうですか。はいはい」

喜多さんはふくれっつらで、加地くんがほぐしたほっけの塩焼きを口に放り込んだ。

「やっぱりさ、大澤には加地みたいなタイプがいいと思うわ」

これもやって、と鰤カマの塩焼きを加地くんに渡して、喜多さんは私を見た。

「こういう優しくて気が利いてほわほわしてて、無色無味無臭、人畜無害って感じの男」

あれ?結構ひどいこと言われてる?と思って加地くんを見ると、加地くんは笑いながら、言われたとおりに鰤カマをほぐしていた。

「人畜無害ではないですよ」

できました、と加地くんは鰤カマを喜多さんに手渡してから反論する。

「俺だってこう見えて男ですから。いろいろ計算とかもしてますし。欲しいもののために戦うこともありますよ」

そういえば、前に『俺、意外と悪いやつだったりして』と言っていたっけ。

「そうなの?」

喜多さんが、疑わしい、といわんばかりのまなざしを加地くんに向けてから「大澤、どう思う?」と私にたずねる。

「どうなんでしょう……」

私はビールを飲む加地くんの横顔を見つめながら考えた。

「加地くんはむやみやたらと人を傷つけたりはしない人だし。もしなにかしたとしても、きっと誰かのことを思ってのことだと思うし……。加地くんの優しさに救われる人はたくさんいるんだろうなって思います」

私だってそうだ。
加地くんのやさしさに救われたことが何度もある。

「もうあんたら付き合っちゃえ!」

喜多さんがやけ気味に言って、またビールを飲み干した。

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