嘘から始まる恋だった
そう言うと数歩先の居酒屋に入った。
「いらっしゃい…」
「奥、空いてる?」
「空いてるよ」
「ビールとなんか適当に持ってきてよ。あっ、君は何を飲む?」
「烏龍茶で大丈夫です」
「じゃ、よろしく」
「あいよ…」
マスターらしき人と親しげに会話して、
奥へと部長に誘導される。
畳、4畳程の奥座敷
掘りごたつになっていて足が伸ばせるようになっていた。
すぐに用意された飲み物と食べ物がテーブルの上に並べられ
「他に何かあるかい?」
「今はないかな…」
「それじゃ、お嬢ちゃんゆっくりしていきな」
部長との会話を終わらせたマスターが、私にも声をかけてくれるなんて思いもしなかったので、慌てて正座をしてお辞儀をしていた。
「あっ…はい。ありがとうございます」
「いい子じゃないか…高貴のこれかい?」
小指を立て、ニヤリと笑うマスター
「いや…これから口説くんだから余計なこと言わないでくださいよ」
「おっ、そうかい…お嬢ちゃん、高貴はいい奴だよ。男前だし優しい奴だ…おじさんの保証済だから安心して付き合ってやってくれ」
部長が釘を刺したにもかかわらず、マスターは楽し気に私に向かって話終えるとそそくさと退散し、部長は頭を抱えていた。
その姿がおかしくて
「うふふ…マスターは部長が大好きなんですね」
「昔からの付き合いだからか、言えないこと無しなんだよ。それに、女の子と2人きりで店に来たのは初めてだしね」
意味ありげに微笑む部長。
思わず頬が熱くなり、心がキュンとなる。
グラスをギュッと握り、こんな素敵な人から、特別な意味合いを含めて言われればどんな人だってときめくはずと自分に言い聞かせ納得させていた。
「……話がそれたね。とりあえず、乾杯」
私が持つグラスに部長が持っていたジョッキをカチンとあてた。
勢いよくゴクゴクと飲む部長を盗み見しながら、私も緊張して渇いた喉を潤した。
いったいなんの話をするのだろう?
「花崎さん…」
「はい…」
突然で、声が上擦る。
「フッ…そんなに緊張しないで。とって食いやしないよ」
そんな言い方をされると頬の熱さが増大する。
「常盤常務とは親戚か何か?」
「……は、い。実は母の再婚相手で義父になります」
「そういうことか…なら、さっきの彼はお義兄さんか⁈」
「そうです。私の大学進学と同時に義父と母が結婚しました」